1分20秒あたり。
服がアクセサリーに引っ掛かって脱げない!!
それを沢田研二らしいセクシーなスタイルで乗り切る。
カッコいい!!



道化役に疲れた疲れた疲れ果てた。
もう嫌だ、絶対に嫌だ。

忌々しい、兄さんの履き古した靴!!
弟の僕は、お下がりしかもらえない。
あの靴、滑って滑ってしょうがない。
せっかく鍛えた跳躍力も、あの靴じゃ危なっかしい。

ピーチ姫。
あの小憎たらしいビッチ。
お前なんか、ピーチ姫じゃなくて、ビッチ姫だ。
兄さんをたらしこんだ女。
あいつがクッパにさらわれたからって、
どうして僕まで兄さんを手伝わなきゃいけなかったんだ。

兄さんときたらビッチ姫にご執心で、
寝ても醒めても彼女のことばかり。
母さんの葬式にも顔を出さなかったあんな女の、
いったいどこが良いって言うんだ!?
ビッチビッチビッチ!!
僕はもう、道化なんかじゃないぞ。

あの女、ビッチビッチのビッチ姫を襲うことに決めた。
幸いにも、兄さんは今日は自慢のカートに乗ってゴルフに行っている。
夕方からはテニスと言っていた。
やるなら今日だ、行くなら今日だ。
僕はカートに乗り込んだ。
いざという時のために、バナナの皮をポケットに入れた。

ビッチの家まではカートで一時間。
僕は長渕剛のCDを入れた。
お気に入りの『Captain Of The Ship』を聴きながら、
アクセルを踏み込む足にも力が入る。
決めるのは誰だ、やるのは誰だ、行くのは誰だ。
そう、僕だ。
僕が今日、ビッチをひぃひぃ言わせてやるんだ。
できるさ、僕にだって。

ビッチの家に着いたのは、もう日暮れだった。
僕の本職は配管工、裏口を外すことくらい造作ない。
家に入ると、甘いバラの匂いがした。
ビッチの奴、お高くとまりやがって。
僕は、ビッチの驚愕の表情を思い浮かべながら足を忍ばせた。
思わず知らず、表情がにやついてしまう。
下半身のクリボーが、スーパークリボーになってやがる。

ビッチはどうやら二階にいるようだ。
物音が二階から聞こえる。
階段は、一気にジャンプして上った。
着地点で若干滑ったがノープロブレム。
ビッチの部屋から声が聞こえる。

ん?
二人?
男と二人?
兄さん、テニスとか言いながら、ビッチのところへ……。
頭の中がカッと熱くなって、僕はドアを蹴り開けた。
裸のビッチが何事か叫んで、布団を体に巻きつけた。
兄さんはというと……、あれ? 兄さんじゃない……。
なんてことだ、マンマ・ミーア!!

僕は我にかえって逃げた。
とにかく逃げた。
ビーダッシュで逃げた。
カートに乗り込むと、後ろからビッチの叫び声が聞こえる。
「アイツを切り捨てて、リンク!!」
緑色の服を着た男が出てきた。
手には剣を持っていた。
なんてことだ。
殺される。
僕はアクセルを思い切り踏み込むと同時に、
ポケットに入れたバナナの皮を投げ捨てた。
バックミラーごしに、緑の男が滑って転んだのが見えた。

やっぱり、真面目に生きよう。
道化役でも良いや。
キリストの一番弟子といわれるペテロ。
彼の苦悩は、バッハのマタイ受難曲の中の一説で描かれている。
また、イスカリオテのユダは裏切り者として、色々な所で描かれている。

彼らを題材にして何か書き上げたいのだが、どうにもこうにもまとまらない。
今日の話。

とある洋品店の駐車場。
車椅子の男性が困っていた。
車に荷物を乗せようとして難渋していた。
俺は無視して店に入っ……、
いや、このまま無視したら自己嫌悪になると思った。
だから、店の前から引き返し、勇気を出して声をかけた。
同時に気付いたのだが、彼の車の真横の車はエンジンがかかっていて、
その車には人が乗っていた。
俺は気恥ずかしさを感じながら、声をかけた。

「もし良かったら、何かお手伝いしましょうか?」

車椅子の男性は、ただ手を振って、

「いや、良いです」

俺は店に入った。



障害があるとかないとか、そういう話ではなく、
誰にでも知っておいて欲しいこと。
親切は、かけるほうだって勇気がいる。
もちろん、心の一部は偽善かもしれない。
だけれども、声をかけるハードルは高く、
偽善だけで超えれるものではないと思う。

親切には勇気がいる。

障害があるとかないとか、優越感とか劣等感とか、
そういう次元の話は置いといて、とにもかくにも、

親切には勇気がいる。

親切をかけられた人には、
その人なりのプライドや考えがあるのかもしれないけれど、
思い切って声をかけてきた人のプライドや勇気、
そういったものも考慮して欲しい。

それでこその『対等』ではないだろうか。
最後にアイツを蹴ったのはリュウイチだった。
リュウイチが頭を蹴った時、イヤな音がした。
ケンジが倒れているアイツの顔を殴っても、
アイツは痛がりもしなかった。
目も閉じなかった。
だから、アイツにどどめを刺したのは、リュウイチのはずだ。

途中から武器を使っていたのはケンジだった。
ケンジは落ちていた鉄の棒で、アイツを叩きまくっていた。
叩くたびに、痛そうな音がしていた。

「ヤバいかも」
アイツが動かなくなって動揺したのか、
一番最初に顔を殴ったヒロシが、一番最初に泣き出した。
メソメソしているヒロシの頭をケンジが叩いた。
ヒロシはますます強く泣いた。

「橋から落ちたことにしよう」と言い出したのは、
一番ひどく殴ったり蹴ったりしていたイクヒコだった。
イクヒコは、皆で口裏を合わせればバレないさ、と言った。

リュウイチとケンジは勢いよく賛成した。
ヒロシはただただ泣いていた。
口裏合わせを提案したイクヒコは得意げだった。

アイツは死んじゃった。
最初に顔を殴ったのはヒロシ。
最後に頭を蹴ったのはリュウイチ。
散々殴って蹴ったのはイクヒコ。
鉄の棒なんか使ったのはケンジ。

こいつら、皆、どうかしている。
ハッキリ言ってバカなんだ。
手加減というものを知らない。
いくらアイツがムカつくからって。
バレたら、こいつら皆、有罪だろうな。
僕は、ほとんど見ていただけ。
二回か三回、アイツのスネを蹴っただけ。

イクヒコがニヤニヤしながら僕を見た。
「言い出しっぺのお前が、一番悪いんだぜ」
ケンジもリュウイチも僕を見て、そうだそうだと言った。
ヒロシでさえ、泣くのをやめて僕を見ていた。

だから、バカは嫌いなんだ。
お前ら、全員死ねば良い。
お前らも、死んでしまえ。

僕は、高校受験の勉強計画を練りながら、
目の前のバカたちを呪い続けた。
小さい頃から、聡い子だと言われていた。
四歳の時にはすでに聖書を暗記し、近所の老人たちに頼まれては諳んじた。
五歳で近所のパン屋の売り上げの計算を任され、お礼に一日一個の飴玉をもらった。
周囲の大人たちからは神童才子と褒められた。
七歳を過ぎた頃から、大人たちの私を見る目に変化を感じるようになった。
だんだんと、怯えのようなものが混じり始めた。
老人たちは私と目を合わせなくなった。
パン屋の仕事はやんわりと断られた。
私だけでなく、私の家族たちも、徐々に周囲から避けられるようになった。

八歳のあの日。
あの時、本当はすべて見えていた。
見えていたのに、そう言わなかったのは、周囲の空気を察したからだ。
見えてはいけない。
そういう気がした。
いや、むしろ。
見えていない、ということを公言した方が良いとさえ思った。
誰のためでもない。
自分のために。
だから私は、叫んだ。
精一杯に子どもらしい無邪気さを装って。

「王様は、はだかだ!!」

周囲の大人たちのホッとした瞳。
「自分たちが王様に対して言えなかったことを、
正直な子どもが大声で指摘してくれた」
そんな安堵?
ちがう。
そうじゃない。
「この子にも見えなかった」
そのことが、大人たちを安心させた。
大人たちは私を取り囲み、談笑した。
この子も普通の子なのだ、と。
そんな大人たちの隙間から見える王様は、
顔を血のように赤らめ、怒りで震えていた。
神秘的な、金色の服に身を包んで。

その日の夜は満月だった。
二人の布織職人が見た最後の満月。
翌日、二人のうちの弟子と称していた男は首をはねられた。
師と呼ばれていた男は裸にされ、二頭の馬で左右に引き裂かれた。
大人たちは、ある者は彼らを罵りながら、ある者は笑いながら、
彼ら二人の死に様を眺めていた。

私は、王様の着た美しい服が見えていたのに、見えないふりをした。
そして、その判断のおかげで、私も、私の家族も、街の一員に戻れた。
老人たちは、また聖書を諳んじてくれと頼んでくるようになったし、
パン屋の仕事も改めて頼まれるようになった。
私は喜んだふりをして聖書を語って聞かせ、
飴玉一個のご褒美に、子どもらしくはしゃいで見せた。
聖書を聞く老人に混ざって、自らの首を抱えた男が座っていた。
パン屋の窓の向こうには、体の裂けた男が立っていた。
私は、見えないふりをして生き、今や七十歳をこえた。

今こうして語っている間も、二人はそこで、私をただ無表情に見ている。
彼ら二人だけは知っているのだ。
私にだけは、見える、ということを。
恐怖?
彼らの亡霊につきまとわれて生きることは、さして辛くはない。
私は見えないふりが得意だし、何より亡霊たちは無害なのだから。
ただ、街の愚か者たちに囲まれて生き続けなければならないことが、苦しい。
内心で身悶えしながら、私はその有害な愚かさが見えないふりをして、愛想笑いを浮かべる。
こんな私をただただ見続けること。
それが、彼ら二人の復讐なのだろうか。
これはあくまでも、自分の予想・空想にしか過ぎないことを先に断っておく。

市橋容疑者は、恐らくリンゼイさん殺害にも関わっているだろう。

殺害直後、きっと彼は相当に動転しただろう。
最初から殺すつもりだったというわけではないと思う。
感情・激情に駆られての犯行。
気づいたときには、目の前でリンゼイさんが横たわって冷たくなっていた。

最初は、動転。
目の前に死体があるという恐怖。
その恐怖に耐え切れず、一度は部屋を逃げ出した。
部屋に戻るのは怖い。
しかし、自分の部屋に死体を放置するのも怖い。

彼は園芸用の土を買って自宅に戻った。
そして、遺体をベランダの浴槽に入れた。
もしかしたら、浴槽も購入したのかもしれない。

ここまでしても、彼の恐怖が静まるはずがない。
窓一枚隔てたベランダに、リンゼイさんの遺体があるのだから。
身近に死体があるということが怖くて怖くて仕方がない。
だからといって、引っ越すわけにはいかない。
彼の頭の中は煮詰まっていた。
そこへ、捜査員がやって来た。

死体に対する恐怖心を常に抱き続けて飽和状態の彼の心身は、
尋常ならざる緊張状態にあり、アドレナリンが分泌されやすい状態。
捜査員という刺激に反射してアドレナリンは大放出され、
肉体は平常以上の力を発揮して追っ手を振り切った。

不本意な形とはいえ、死体から離れることができた彼。
一旦は恐怖から解放されたが、別の恐怖が沸き起こる。
逮捕される恐怖。

それから二年七ヶ月ほどの間。
彼の心の中を占めていたのは、おそらく恐怖。
一番怖いのは、捕まること。
人命を奪うという極悪なことをしたことは分かっているけれど、
それ以上に、ただひたすらに、捕まることが怖い。
だから、整形後の顔写真を公開されてなお、出頭なんて考えきれなかった。
そんなことを考える余地がないほど、頭の中は恐怖で一杯。
ただ、二年七ヶ月に及ぶ慢性的な恐怖は心身を疲労させ、
彼にアドレナリンを分泌させるほどの影響力はなかった。

フェリー乗り場で捜査員から声をかけられた時。
素直に「はい」と応じたが、市橋容疑者は観念していたわけではない。
体が動かなかったのは、彼自身にとっても驚きだったに違いない。
催涙スプレーまで用意していたのだから。
彼が抱き続けた逮捕への恐怖は相当なもので、徹底的に逃げきるつもりだった。

逮捕されて、彼は逮捕の恐怖からは解放されたが、
次は裁かれる恐怖に晒され、服役する恐怖に晒され、
服役中には出所後の社会復帰に対する恐怖に晒され、
恐怖は形を変えながら連鎖して、常に彼を苦しめる。

リンゼイさんに死の恐怖を押し付けた時、
彼は同時に、自分自身に恐怖の鎖を巻きつけたのだ。

どんなに反省したところで、リンゼイさんは還らない。
しかし、彼をこの鎖の呪縛から少しでも救えるものがあるとしたら、
それは、彼自身の心からの反省ではないだろうか。

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